4/29「再びつながるために」 Ⅰコリント1章10-17節④
「心を一つにし、思いを一つにし」の「思い」はギリシャ語「グノーシス」という言葉なので田川訳のように「知識」「認識」が良いでしょう。「グノーシス」は哲学等が盛んであった当時のローマ社会で高度なグノーシスを求めることが流行でもあり、特別な「グノーシス」を得ることが人間の目標をされたのです。「思い」という訳は少し弱いでしょう。
「堅く結び合いなさい」の「堅く」の付加はルター以来の伝統で、「結び合う」は直訳では「修繕する」「回復する」という言葉です。当時の医学用語で「骨折」や「脱臼」を治す言葉にも使われています。いずれにせよ、今は壊れている状態ですが、それが再びつながるということになります。「回復する」ということが大事ですね。人間の関係でも「切れる」ことが生じます。あるいは災害や事故によって「切れる」ことがあります。「死」というものも「決して再び戻ることがない」ゆえに忌み嫌われてきました。しかし、主イエスのよみがえりによって、切れた関係性、切れた命が再びつながる希望を私どもは持つことができるのです。英語で「宗教」はreligion で「再びつながる」という意味だと昔、聞いたことがあります。
11節でパウロは「兄弟たちよ」と語りかけます。ここに実は大きな意味があります。こう呼びかけることによって非難の調子をやわらげています。バークレーが語るように「それはムチをもった教師の言葉ではなく、愛以外の感情を知らない人の非難である」。さらに、「兄弟たちよ」と呼びかけることによって、コリント教会で分裂している人々も本当は、主にある兄弟姉妹であることを認識させようとしています。
「クロエの家の人たち」。岩波訳は「クロエの(家の)人々」と青野太潮先生は訳します。「クロエー」は女性名詞で女性の名前。当時では裕福な商業階級の夫をもつ人だったと考えられます。クロエーの者とは、クロエーに仕える雇われ人、伝統的には「奴隷」とも考えられてきました。田川健三先生はここで岩波訳を批判し、岩波訳で「クロエス」としたことで、「この訳者は杜撰」と言っております。青野太潮先生は、私が西南学院神学部で学んだ新約神学の先生で私も随分影響を受けましたし、信仰者としても見習いたいと思う先生であり続けています。
田川健三先生は荒井献に代表される「東京大学大学院西洋古典学教室」に学んだ人を鋭く批判しております。今は荒井の次の世代(大貫、さらに次の先生)になっておりますが、荒井献の門下であった青野先生に対してもいろいろ批判をしております。田川先生はここで「ともかくこの訳者(青野先生のこと)、水準が低すぎる」と記しております。何を仰る田川先生、青野先生の真摯な研究姿勢を知っている者からすれば「言い過ぎ」と思います。一方で、青野先生が田川先生の批判を論文等で記しても、「田川先生は対話しないんだ」と嘆いておりました。青野先生も言っておりますが、田川先生は自分の門下生には大変甘いところがあり、世界的な新約聖書学の権威である田川先生(フランス、ストラスブール大学で学んだ)も所詮、人間なんだなぁと思います。
元に戻しますと、私の手元にある岩波訳(2004年版)で青野先生は田川先生が指摘している「クロエの(家の)人々」としておりますので、青野先生がこの指摘を受けて修正したのかしらと思って1996年の初版本を見たら確かに「クロエス…」とあったので、青野先生が指摘を受けて「クロエ」に修正したのですね。「聖書研究」というのは大変広い世界で、ある面から見たら二千年前の古文書の解釈になります。そして「聖書」ほど世界で研究されている書物は他にないでしょう。
ここまで書いたのでついでに。私の名前は「献」と言いまして、父が「献」と名前をつけると聞いた母は「変な名前、やめてー」と。父は「いや、荒井献という優れた学者がいる」とのことで母も了解したようです。私はドラ牧師ですみません。
荒井献先生のライフワークの一つである「使徒行伝」の講義を西南学院大学神学部時代に受けました。荒井先生も青野先生も、聖書の一行を解釈し、翻訳するのに、世界中、そして歴史の中にある文献をいくつも参照し、調べて、聖書のメッセージを捉えようとする姿に感銘を受けたものです。福音書とか、ローマ書、コリント書等は文献が大変多いので、調べるだけで時間がかかるのです。東大西洋古典で学ぶ人はギリシャ語、ヘブライ語、英語、ドイツ語などぺらぺらでなければ入学できないのですね。まぁ、私は今更東大で学びたいとは思いませんが。
さらに、私が22~25歳の頃、岩波新書で買った荒井献の「イエスとその時代」、そして田川健三の「イエスという男」、私の人生に大きな影響を与えた本です。もちろんいずれも基礎は「聖書」です。それはさておき、今日はY・Sさんのお誕生日おめでとうございます。
<日本バプテスト連盟教会・伝道所等を覚えての祈り> 日本バプテスト連盟派遣宣教師を覚えて。野口日宇満・野口佳奈宣教師(インドネシア派遣)。①諸教会の宣教の前進。②自然災害やテロリズムからの守り。③使命にふさわしいビザの取得。④家族の健康。
嶋田和幸・嶋田 薫宣教師(カンボジア派遣)。①教会の日曜学校が祝され、「子どもから子どもへの伝道」が導かれるように。②新型コロナウイルスの感染が収束に向かうように。