8月11日週報巻頭言「『ゲン』が語る原爆への怒り」
▲ふとしたことで「読売新聞」1995年8月5日の記事「気流で読む戦争」を目にしました。筆者は「埼玉県所沢市・漫画家中沢啓治56」とあります。漫画「はだしのゲン」の作者です。約30年前に記されたこの文章で中沢氏はこう記しております。▲「当時小学生だった私は、爆心地から1,2㌔の地点で被ばくした。幸い学校のへいのそばにいたため奇跡的に助かったが、前にいた女性は全身を熱線で焼かれて即死した。/爆風で家並みはつぶされ、街には全身の皮膚を焼かれた人々の幽霊のような行進が続いた。/私の父と姉、弟は倒れた家の下敷きになり、母が必死で助け出そうとしたが、柱はビクともしなかった。火災が起きて、弟は『お母ちゃん、熱い、熱い』と叫びながら死んでいった。その悲惨さは、とても『地獄』などという言葉で表せるようなものでなかった。/以後、私は『原爆』という言葉から目と耳をふさいで逃げ回った。あの時のせい惨な光景が目に浮かんで来るからだ。/だが、被爆後21年間生き抜いた母が死んだとき、放射能の影響か、火葬でぼろぼろになってしまった遺骨を見て、『原爆は大事な母の骨まで奪っていくのか』と怒りに震えた。この気持ちをエネルギーに、原爆をテーマにした漫画『はだしのゲン』を描き続けた。それは私の自伝で、書いてることはすべて体験したことだ。…『これから先、だれかが戦争や原爆を肯定するようなことを言っても、絶対に信じるな―』。それが原爆体験者としての私が将来に託すメッセージだ。」▲戦後79年、「大東亜共栄圏構想」の下、アジアに侵略戦争を行い、自国民にも自爆や自死を強制した歴史への批判から生まれた「平和憲法」は揺るぎ、侵略と破壊が続く世界は続いています。▲核兵器は増加し、いつでも使える準備がなされ、様々な戦争の終結を難しくしています。それもまた核兵器の持つ暴力の一つでしょう。▲昨年、ニュースで小学生の教科書から「はだしのゲン」が消えたという記事を見ました。中沢氏が命をかけて託すメッセージもこうして消されます。▲広島原爆慰霊碑文「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」の「主語」は誰なのかいつも考えます。誰がどんな顔をして「安らかに眠って下さい」と言えようかと…。▲雷鳴を聞き考える夏の夜。(献)